ピュ〜と吹く系、女子高生
「女子高生」という響きに甘酸っぱい憧れのような気持ちがあるのは何故だろうか。かつて、自分にも女子高生時代があったことがにわかには信じがたい。
じゃあ、女子高生だった自分が何をしていたかというと、カラオケや恋愛、部活動などには見向きもせず、放課後は毎日友だち数人とジャスコに繰り出し、まるでスーパーでたむろするおばさんのようにフードコートでただひたすらにだらだらと井戸端会議を繰り広げるのが常だった。そして、おもしろかった漫画の話とかをした。(たしかそのときは「ピュ〜と吹くジャガー」という漫画にはまっていた)
そんなとき、授業で班ごとに調理実習が行われることになった。私の班は、仲良しのみきピュ〜(みきピュ〜のピュ〜はピュ〜と吹くジャガーが由来である。言わずもがな。)と、男子2人だった。
男子と女子で調理実習とは、言葉だけ聞くとなんとなく甘酸っぱそうなにおいがする。当時、初めての調理実習でまったく料理をしたことのない私とみきピュ〜が張り切った結果、ものすごくまずいものが出来あがった。(まずさの記憶が先にたち、何を作ったのかは忘れた。)
そしてそれ以来、調理実習の度にあからさまに男子2人が欠席するようになり、私とみきピュ〜は仕方なく1人ずつ他の班に混ぜてもらうはめになった。
甘酸っぱい、というかほろ苦い経験。
あれから時が経ち、みきピュ〜は立派に2児のママになったから、もしかしたら料理上手になっているかもしれないけれど、私の料理の腕前はさして上達はしていない。
リサちゃんとオバタサンチェリー
「オバタサンチェリーが死んだ」と、小学校の帰り道にリサちゃんが言った。
「オバタサンチェリー?」
あだ名なのか、外国の人なのか、ゲームの中の話なのかわからず戸惑うわたしをよそにリサちゃんは淡々と話を続ける。
よくよく聞くと、金魚すくいですくった金魚のことらしい。
「そんな名前だったの?」と、金魚の死をかすめるほどのインパクトを持つ名前についてわたしがたずねると、リサちゃんはことも無げに「うん、死んでからつけた」と言った。
金魚のお墓をつくるときに「オバタサンチェリー」って書いてあるミニトマトのパックに金魚を入れて土に埋めたから、オバタサンチェリーになったらしい。
オバタサンチェリーがミニトマトの種類なのか農園の名前なのかはよくわからないけど、わたしは今でもミニトマトを食べるときにふと、金魚のことを思い出すことがあるよ。
リサちゃんはたぶん忘れてるんじゃないかなぁ。
忍者系上司
大学を卒業して、いちばんはじめに入った広告会社の上司はものすごく職人気質な人だった。
その人は、デザイン、写真撮影、ライティング、企画、など、ありとあらゆる分野をたった1人で開拓し、納得のいくものができるその瞬間がくるまで、決して妥協することがなかった。全身全霊をかけて、制作に取り組む姿は「プロジェクトX」を彷彿とさせ、心の中でわたしは中島みゆきの「地上の星」を歌った。
そんな風なので、上司は会社に泊まり込むことも珍しくなかった。まぁ、それはいいとしても、仮眠室があるにも関わらず、つるっつるのフローリングの床になにも敷かずに転がって寝る上司がとても不思議だった。仮眠室にはふとんもあるのに。うちの犬ですらふかふかのクッションの上で寝ているのに。
そして、上司にはなぜかまったく足音がなかった。私や同期がパソコン作業をしている後ろをサッサカサッサカ通るので、くだらない調べものをしているPC画面を見られるんじゃないかと常にヒヤヒヤしていて本当に苦痛だった。
おかげで、ウィンドウを瞬時に閉じるというくだらない特技も身についた。同期とは「おみやげにでかい鈴のついたキーホルダーをプレゼントするのはどうか」などと真剣に話し合ったりした。
そして、上司が星の速さでポケットからフリスクを取り出す姿を見るたび「手裏剣を取り出す忍者みたいだなー」なんてぼんやり思っていた。
会社を辞めてもう10年近く経つけど、まだ地上の星みたいな働き方をしているのかな。