私の出会った愛すべき人たち

だいたい1日1件更新。これまでに出会った印象的な人やものごとを記録。

忍者系上司

大学を卒業して、いちばんはじめに入った広告会社の上司はものすごく職人気質な人だった。

 

その人は、デザイン、写真撮影、ライティング、企画、など、ありとあらゆる分野をたった1人で開拓し、納得のいくものができるその瞬間がくるまで、決して妥協することがなかった。全身全霊をかけて、制作に取り組む姿は「プロジェクトX」を彷彿とさせ、心の中でわたしは中島みゆきの「地上の星」を歌った。

 

そんな風なので、上司は会社に泊まり込むことも珍しくなかった。まぁ、それはいいとしても、仮眠室があるにも関わらず、つるっつるのフローリングの床になにも敷かずに転がって寝る上司がとても不思議だった。仮眠室にはふとんもあるのに。うちの犬ですらふかふかのクッションの上で寝ているのに。

 

そして、上司にはなぜかまったく足音がなかった。私や同期がパソコン作業をしている後ろをサッサカサッサカ通るので、くだらない調べものをしているPC画面を見られるんじゃないかと常にヒヤヒヤしていて本当に苦痛だった。

おかげで、ウィンドウを瞬時に閉じるというくだらない特技も身についた。同期とは「おみやげにでかい鈴のついたキーホルダーをプレゼントするのはどうか」などと真剣に話し合ったりした。

 

そして、上司が星の速さでポケットからフリスクを取り出す姿を見るたび「手裏剣を取り出す忍者みたいだなー」なんてぼんやり思っていた。

 

会社を辞めてもう10年近く経つけど、まだ地上の星みたいな働き方をしているのかな。